現状の仮想通貨の税制については、以下の国税庁からの対応方針や、考え方が公表されているが、税額計算の複雑性など様々な課題があると業界内に出ている状況にある。

この中でも、特に、仮想通貨間の交換について課税対象取引となっている点が、最も大きな課題点と言われている。

これら課題に対し、大学教授や税理士などの専門家が「暗号通貨に関する租税制度研究会」として有志で集まり、現状の税制の枠組みの中で、どのような解決策があるのかの検討を行い提言としてとりまとめ、仮想通貨事業者2団体(順不同 一般社団法人日本ブロックチェーン協会(JBA)、一般社団法人日本仮想通貨事業者協会(JCBA))に対し提案を行った。

今後は、仮想通貨事業者団体におかれ、さらなる検討などのうえ、業界の声という形で、税制改正に繋がるよう与党への働きかけに繋げて頂ければと希望している。
(資料:(公開用)暗号通貨に関する租税制度研究会_提言資料_2018年4月.pdf

本記事は、この提言の作成に参加した筆者が、内容について解説を行うものとなる。

なお、提言は、特定の事業者、団体等の意見、利益を代表するものではなく、仮想通貨業界全体の今後の発展のために有志が集まり作成したものであること、内容は、専門的な知見を持つ有志で作成したものの、業界内には様々な意見があることも十分承知しており、今後の業界団体、業界内での税務にかかる議論の一助となることを目的としたものであることにご留意頂きたい。

暗号通貨に関する租税制度研究会について

研究会では、以下の仮想通貨税制において相応に高い知見のある専門家有志が集まり検討を行った。

(順不同)参加者
酒井 克彦中央大学 商学部教授
柳澤 賢仁柳澤国際税務会計事務所 代表税理士
泉 絢也千葉商科大学 商経学部専任講師
久保 泰一郎アジャストアドバイザリー株式会社 代表取締役
日影公認会計士共同事務所 パートナー
渡邉 直人KPMG税理士法人 パートナー
沼澤 健人株式会社Aerial Partners 代表取締役
井上 剛夫株式会社Aerial Partners
長縄 順一青山綜合会計事務所シンガポール代表
古矢 義和青山綜合会計事務所シンガポール
柿澤 仁公認会計士、OmiseGO business development manager
後藤 あつし仮想通貨研究者

※上記以外にも、都合上氏名の公表を行っていない仮想通貨税務研究家等の参加者もいます。
※打合せ会議室の提供 LIFULL (LIFULL HUB http://hub.lifull.com/)

現状の仮想通貨税制での課題点

課題認識

日本では、世界的に仮想通貨の位置付けが曖昧な中、先行して資金決済法の改正(仮想通貨法)により、登録交換事業者制度を導入したことで、仮想通貨取引の法的位置付けの明確化、登録事業者における本人・取引時確認の義務化による仮想通貨取引の透明性向上などが行われ、加えて消費税非課税化も実現し、世界の事業者や技術者、コミュニティなどから高い評価を受け、多くの世界の事業者が日本進出を検討することに繋がった。

一方、仮想通貨取引の税務上の取扱い、特に“仮想通貨間の交換”が課税対象となっていることで、今後大きな発展が見込まれるトークンエコノミーや決済利用分野などでの利便性が阻害されるとの認識が広がり、国内の業界発展だけでなく、日本進出を検討、希望する海外の先端企業や技術者の妨げにもなっている状況にある。

現状の仮想通貨にかかる税制面で課題と考えられている点

現状の仮想通貨税制の課題点は、以下のように、仮想通貨の利用と、マイニングという2つに整理できる。

課税対象取引課税タイミング、税制
仮想通貨の利用交換(利用)時点
- 仮想通貨⇒法定通貨雑所得
- 仮想通貨⇒仮想通貨
- 仮想通貨⇒物品、役務

【課題点】

  • 役務・物品の購入や、送付、交換の都度、その時点の時価を把握し、取得原価を移動平均や総平均法で計算、実現損益、課税対象額を計算することが求められており、一般利用者がこれを行うことは非常に困難
  • 累進課税により高い税率となる場合があり、また、損失の繰り延べができない
  • 相対で受け取った場合など、取得原価が不明の場合、保守的に0円と評価せざるを得ない
  • 仮想通貨間の交換では、対円の市場がないものがあり、税額計算時に円建価格の把握が困難な仮想通貨がある
  • 海外交換所等での取引も非常に多く、銀行口座などを経由しない仮想通貨のみの動きのため、税務当局による補足が実務上難しく、課税の公平性が大きく偏る可能性がある
課税対象取引課税タイミング、税制
マイニングにかかる仮想通貨報酬の受取報酬受取時点(売却しての換金時点ではない)

【課題点】

  • マイニングはコストである電気代等の支払額と、報酬仮想通貨の売却額のネットにより、最終的な損益が出るため、現状の税制のように報酬仮想通貨の受取の瞬間を課税タイミングとされると、収益と費用の計上タイミングが異なることになり、税務における費用収益対応原則の観点から問題と考えられる。
  • マイニング税制面での課題により、世界的に成長が見込まれているブロックチェーン技術を利用した産業発展が阻害される可能性がある。

研究会での税制改正案の検討範囲について

仮想通貨にかかる本来的な“あるべき課税のあり方”、“仮想通貨のための独自税制の手当て“を考えるには、現状のトレーディング主体の利用だけでなく、トークンエコノミーやマイクロペイメント、ICO、分散取引所、法定通貨との換金価値が一定となるようなステーブルコインの発展(法定通貨との換金ニーズの低下)など、多岐にわたる新しい使われ方、技術進歩を踏まえ、そのうえで、政治側が政策的配慮を行うに足る合理的な理由が必要であり、検討には長い期間が必要となる。

※仮想通貨独自税制の例としては、利用者が納税するのではなく交換所等へ、取引税、トランザクション税として一括して課税する形や、仮想通貨購入時に一度だけ課税する形などが考えられる。

他の業界において独自税制を実現していった事例では、業界内外での長期的な検討の中で、少しずつあるべき税制の姿の議論と、政治側への働きかけによる政策的配慮の必要性の醸成、そのうえでの税制改正実現という流れになっており、仮想通貨においても、一足飛びに“あるべき姿”、“仮想通貨の独自税制”を実現していくことは難しく、今後長期的に業界として検討を進めていくものと考えられる。

一方、現状の仮想通貨税制の課題においては、特に仮想通貨間取引が課税対象になっている点など、早期に改善を行わなければ、世界の事業者や技術者が日本進出を取りやめるだけでなく、日本でのみ世界展開されるサービスが行われず、日本での仮想通貨・ブロックチェーン関連産業の発展が大きく阻害される懸念がある。そのため、本提言においては、以下の点から検討を行うこととした。

  • 現状の仮想通貨税制の課題にフォーカスした検討を行う
  • 時間を要する仮想通貨のための独自税制の手当て、本来的なあるべき税制の姿の議論ではなく、現状の税制の援用により、即時性を持って対応できる手当てを検討する
  • 仮想通貨普及の観点から基本的に個人納税を念頭にした検討を行う

研究会での税制改正案の提言内容

研究会では以下の5つの提言の取りまとめを行った。

提言 1:仮想通貨同士の交換にかかる損益は、法定通貨との交換時点等まで繰り延べ可能とできることとする

  • 仮想通貨間の交換については、実務上、納税者において、取引の網羅的な捕捉と(課税当局における捕捉性も課題)税額計算が困難であるため、仮想通貨間の交換にかかる損益を課税上認識せずに、法定通貨への交換や決済手段としての利用時まで課税を繰り延べできるようにする。
  • 対象は、資金決済法で定義されている1号、2号仮想通貨とする。
  • 税額計算が実務上非常に困難な仮想通貨同士の交換にかかる課税を、法定通貨との交換時点等まで繰り延べできることで、市場取引が活性化し、トータルでの税収増が期待できる。

これは、仮想通貨同士の交換を繰り返しても、その間の実現益は課税対象とはせず、最終的な法定通貨との交換やサービスやモノの購入時点と、最初の仮想通貨の取得時点を比較し、そこで実現益が出た場合に課税対象とするものとなる。仮想通貨にかかる消費税については、仮想通貨の支払手段としての側面が考慮され非課税となっており、この考え方を踏まえると、仮想通貨間の交換は、まだ支払手段として利用されていない段階にあり、決済利用時まで繰り延べするという考え方は整合的であると思われる。

加えて、仮想通貨間の交換にかかる税額の実務的な計算困難性を踏まえると、途中の仮想通貨間の交換時よりも、後の決済利用や法定通貨との交換時に、より実効的な課税タイミングが存在するとして課税を繰り延べる方がよいとも考えられる。最初の取得価格の管理は必要になるが、途中の仮想通貨間の交換を繰り返す部分を課税対象外とすることで、税額計算、その捕捉性の負担を大きく改善できると考えられる。

提言 2:仮想通貨の取引にかかる利益への、少額非課税制度を導入する

  • 既存の制度に準じた20万円までの利益にかかる非課税制度を導入するもの。
  • 仮想通貨によるモノ、サービスの購入時、その時点で含み益があれば実現したとして課税となるが、実務上、決済利用の都度含み損益の計算を行うことは非常に困難であるため、本制度により、仮想通貨の決済利用が促進され、関連産業の発展が期待できる。

提言1で、仮想通貨同士の交換にかかる損益を繰り延べしても、最終的な法定通貨との交換やサービスやモノの購入時点では税額計算が必要となるため、手軽な決済手段としては普及が阻害されると考えられる。そこで、既存制度に準じ、20万円までの仮想通貨取引にかかる利益への少額非課税制度を導入することで、税金を気にしないで一般的な決済利用が可能な環境を実現できると思われる。

なお、20万円の妥当性であるが、これ以上の金額枠とすることは新しい税制の導入となり、長い検討の時間が必要になると考えられ、また、将来の仮想通貨が普及した一般的な決済利用の場面においては、仮想通貨の受取と支払において、それほど大きな益は出ない可能性が考えられる。

提言 3:マイニングにかかる課税タイミングは、収益、費用ともに、報酬として受け取った仮想通貨を法定通貨との交換時点等まで繰り延べ可能とできることとする

  • マイニングでは、機材を動かす電気代等の費用と、報酬仮想通貨の売却益をネットして損益が確定するため、課税タイミングを、報酬仮想通貨を法定通貨に換金した時点等まで繰り延べできることとし、合わせて、費用収益対応原則から、電気代などの費用も繰り延べできるようにするもの。
  • マイニングでは、コンピュータリソースを拠出し合ったグループ(マイニングプール)への参加も多く、その場合、プール全体で獲得した一定期間の報酬がまとめて分配されるため、収益タイミングの認識が難しいという問題も解決可能となる。
  • ブロックチェーンでは、マイニングによるネットワークの維持管理が重要であり、実務に適した課税形式にすることで、マイニングへの参加インセンティブを促進し、ブロックチェーンを利用した新しい産業の発展、それに伴う税収増が期待できる。

提言 4:仮想通貨取引にかかる利益への課税方法は、20%の申告分離課税とし、損失については翌年以降3年間、仮想通貨にかかる所得金額から繰越控除ができることとする

  • 対象は、登録交換事業者での取引とし、それ以外の海外取引所等での取引は雑所得として取り扱う。
  • これにより、参加者増による市場活性化、トータルでの税収増に加え、非登録事業者や海外市場ではなく、本人確認義務が課されている国内登録交換事業者を使うインセンティブになり、仮想通貨取引にかかるマネロン対応等の点でも健全性の向上が期待できる。

この点は、雑所得による高い累進税率への対応として業界内で要望が聞かれることが多いものとなるが、参議院財政金融委員会での藤巻議員から主税局長への質問への回答(2018/3/22、https://www.youtube.com/watch?v=4j_dRQQApYw http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/196/0060/19603220060005a.html )等を踏まえると、申告分離課税の実現には、政策的な配慮に加え、仮想通貨取引にかかる利用者保護態勢の確立など、業界側としての態勢整備が重要であり、業界側の対応を進めつつ要望を上げていく必要があると考えられる。

提言 5:仮想通貨取引にかかる税額計算時に、取得費が不明の場合、売った金額の5%とできるようにする

  • 土地建物の取得費がわからない場合、取得費の額を売った金額の5%相当額とすることができる制度に準じ、仮想通貨取引にかかる税額計算時に、取得原価が不明な場合の取扱いを明確化するもの。
  • 仮想通貨は、個人間での清算など、相対で受取る場合も多く、事後的に取得原価が不明瞭になるケースが多く生じるため、税額計算時の取扱いを明確化することで、適切な納税の促進が期待できる。

提言1での、仮想通貨同士の交換にかかる損益の繰り延べでは、最終的な法定通貨への交換や決済利用時に、取得原価との差額に損益が生じているかの計算が必要になるが、友人間での割り勘の清算で受取った仮想通貨など、事後的に取得原価が不明なものも当然出てくることになる。実務上は、取得原価を明瞭なデータとして認識できなくても、ある程度合理的に説明できる資料があれば、申告した取得原価は認められるケースは多いようであるが、それもない場合0円の取扱いとなるため、対応を行うものとなる。5%は相応に低い金額となるが、既存の税制における取得費が不明な場合の制度はこれしかないため、独自税制による手当て以外では、この仕組みで要望を行っていくことになると考えられる。

今後の税制改正の実現に向けて

税制改正を行うには、政治の場において、政策として税制面での配慮を行う必要性を適切に理解してもらう必要がある。そして、そのためには、特定グループ等の声ではなく、広く“業界全体からの声”として要望を伝えていくことが重要となる。

一方で、現状の日本の仮想通貨税制については、既に世界の事業者や技術者間で課題があるとの認識が出ており、早急な手当てを行わなければ、ここまで資金決済法の改正(仮想通貨法)や消費税非課税化で、世界的にも仮想通貨・ブロックチェーン産業でリーダーシップをとってきた日本のプレゼンスが大きく低下し、新産業の発展の機会を失する可能性も考えられる。

なお、最短での税制面での手当てを行うには、今年夏頃には与党税調に対し業界要望として提案を行っていく必要があり、時間的にはそれほど猶予がない状況にある。

直近対応すべき課題点

研究会からは5つの提言を行ったが、特に今後の業界の発展には、以下の点(特に提言No1)の早急な実現が必要と考えられ、次回税制改正への要望の中心になると思われる。

提言No1:仮想通貨同士の交換にかかる損益は、法定通貨との交換時点等まで繰り延べ可能とできることとする
提言No2:仮想通貨の取引にかかる利益への、少額非課税制度を導入する
提言No3:マイニングにかかる課税タイミングは、収益、費用ともに、報酬として受け取った仮想通貨を法定通貨との交換時点等まで繰り延べ可能とできることとする

一方、20%の申告分離課税については、参議院財政金融委員会での答弁にもあるよう、政策的な税制面での配慮のためには、仮想通貨取引にかかる利用者保護態勢の確立など、業界側への態勢整備が求められており、実現には一定の時間を要すると思われる。

※この点については、フランスが仮想通貨にかかる所得税率を大幅に引き下げるというニュースも出ており、成長の見込まれる仮想通貨産業の育成や世界の有望な事業者・技術者を呼び寄せるための政策的配慮が、他国で今後さらに出てくることが予想され、日本が遅れをとらないようにする観点も必要と考えられる。

今後の業界としての対応

今回の提言は、認定自主規制団体を目指す新団体、日本仮想通貨交換業協会の態勢整備前ということで、既存の2事業者団体への説明を行っている。

日本仮想通貨交換業協会の奥山会長からは、税制面の課題対応は業界として重要であること、今後の与党側への提案においては、業界団体から“業界の声”として適切な形で持ち出していくことがポイントとなり、まずは研究会の提言を踏まえ、業界内の声を集める機会を設けていきたいというコメントがなされた。

今後は業界団体主導で仮想通貨にかかる税制改正要望を行ってく流れが見込まれるが、事業者に加え、その他業界関係者などにおかれても、要望が“業界の声”となるよう前向きな検討への協力を期待したい。

参考URL:https://btcnews.jp/37x9p8p516125/ 

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